
なぜ日本のサポートは電話が主役なのか?
- 5年間の変化とAIが拓く未来 -
最近、あるサービスについて問い合わせるため、久しぶりにコールセンターを利用する機会がありました。そこで改めて感じたのは、楽天やAmazonといった国内トップクラスのECサイトですら、未だにサポートの主役が「電話」であり、メールや問い合わせフォームは二次的な扱いに留まっているという現実です。
この文章の元となる問題意識を抱いたのは約5年前。その時から、この「電話至上主義」とも言えるサポート体制に、私は大きな疑問を抱いてきました。そして5年が経過し、社会のデジタル化が急速に進んだ今も、この状況は大きく変わっていません。
電話サポートが抱える、今なお深刻な課題
なぜ私はこれほどまでに、電話サポート中心の体制に不便さを感じるのでしょうか。それは、利用者として看過できない多くのデメリットが存在するからです。
- 繋がらない、待たされる「時間の浪費」
ナビダイヤルに従って番号を押し、延々と保留音を聞かされ、ようやく繋がったと思えば「ただいま混み合っております」のアナウンス。多くの人が経験するこの時間は、まさしく無駄以外の何物でもありません。折り返しを依頼しても、いつかかってくるか分からず、その間ずっと電話を気にしなくてはならない不自由さもあります。 - 担当者が変わる「引き継ぎの不備」
問い合わせが複雑化すると、担当者が何度も変わることがあります。その度に同じ説明を繰り返さなければならず、引き継ぎが不十分なために話が振り出しに戻ることも少なくありません。これでは問題解決が遠のくばかりです。 - 「言った、言わない」というトラブルのリスク
音声でのやり取りは記録に残りにくく、後になって「そうは言っていない」「聞いていない」といった水掛け論に発展するリスクを常に抱えています。一般の契約において書面での記録が常識であるように、重要なサポートのやり取りこそ、正確な記録が不可欠なはずです。 - 多様性を無視した「アクセシビリティの欠如」
そもそも、聴覚に障がいを持つ方や、様々な事情で発話が困難な方は、電話サポートという選択肢自体を利用できません。また、職場や移動中の電車内など、声を出して電話ができない状況にいる人も大勢います。電話のみを主要な窓口とすることは、こうした多様なユーザーを初めから排除していることに他なりません。
テキストサポートがもたらす、顧客と企業双方のメリット
一方で、メールや問い合わせフォームといったテキストベースのサポートには、電話にはない多くのメリットがあります。
顧客側のメリット
- 24時間365日、自分の都合の良い時に送信できる。
- 通話料がかからない。
- 問い合わせ内容と返信が全てテキストとして正確に記録され、いつでも確認できる。
- 要点を整理し、落ち着いて文章を作成できる。
企業側のメリット
- 問い合わせ内容をテキストデータとして蓄積・データベース化できる。
- 顧客からのフィードバックを分析し、FAQの改善やサービス向上に繋げやすい。
- 「言った、言わない」のトラブルを未然に防ぎ、コンプライアンスを強化できる。
そして何より、この蓄積された膨大なテキストデータこそが、これからの時代を勝ち抜くための「宝の山」となるのです。
5年前には見えなかった、AIが変えるカスタマーサポートの未来
5年前、私は単純に「テキストデータを活用すれば、より良いサービスが作れるはずだ」と考えていました。しかし、この5年間でAI、特に生成AI(大規模言語モデル)は驚異的な進化を遂げ、カスタマーサポートのあり方を根底から覆す可能性を示し始めています。
かつてのAIチャットボットは、あらかじめ設定されたキーワードに反応するだけの、お世辞にも「賢い」とは言えないものでした。しかし現代のAIは、人間のように文脈を理解し、自然な対話を通じて問題の核心を捉える能力を持ち始めています。
この進化を踏まえた上で、私が理想とする未来のサポート体制は以下の通りです。
- 第一の窓口は「メールフォーム」に統一
まず、全ての問い合わせの入り口をテキストベースのフォームに集約します。これにより、全ての顧客が公平にアクセスでき、かつ全てのやり取りがデータとして記録される基盤ができます。 - AIによる24時間365日の一次対応
送信された問い合わせ内容をAIが瞬時に解析。よくある質問や簡単な手続きであれば、AIが即座に回答を生成して返信します。これにより、顧客は待ち時間なく問題を解決でき、オペレーターは単純作業から解放されます。 - AIが解決できない問題のみを「人」が対応
AIでは対応できない複雑で感情的な配慮が必要な問題のみ、専門のオペレーターにエスカレーションされます。その際、AIは問い合わせの要約と過去の履歴をオペレーターに提示。オペレーターは状況を即座に把握し、質の高いサポートに集中できるのです。
この「AIと人間の協業」こそが、顧客満足度と業務効率を両立させる鍵となります。
結論:全てのユーザーに開かれた窓口を
若者の電話離れ、格安SIMの普及による電話番号の流動化、そして高齢化に伴う難聴者の増加など、社会は確実に変化しています。電話番号が個人の証明として機能した時代は終わり、コミュニケーションの主役はテキストへと移りました。
企業は、旧来の「電話が基本」という常識から脱却し、誰もが利用しやすいテキストベースのサポートを「必須インフラ」として整備すべきです。そして、AIという強力なツールを正しく活用することで、そこで得られた顧客の声を、かつてないほど価値ある資産へと変えることができます。
全てのユーザーに寄り添い、時代の変化に対応したサポート体制を構築すること。それこそが、未来の顧客から真に選ばれる企業となるための、最初の、そして最も重要な一歩であると私は信じています。
























