
メリーソート社の物語:幸運のウィッシュボーンと英国最後のテディベア
テディベアの歴史を語る上で、ドイツのシュタイフ社と並び、英国を代表するメーカーとして不動の地位を築いているのが「メリーソート(Merrythought)」社です。産業革命の中心地であったアイアンブリッジに今なお拠点を構え、英国最後のテディベアメーカーとして伝統的な製法を守り続けるその姿勢は、世界中のコレクターから深い敬愛を集めています。その名の由来となった幸運のシンボル「ウィッシュボーン」と共に、メリーソートは数々の名作を世に送り出してきました。
今回は、メリーソート社の豊かな歴史、1930年代に作られた初期のテディベアが持つ魅力、そして現代に至るまでの革新的な試みまで、その奥深い世界を詳しく探求していきましょう。
第1章:幸運の骨に込められた願い - メリーソート社の誕生
創業の歴史と「メリーソート」の由来
メリーソート社のテディベア製造の歴史は、1930年にゴードン・ホームズによって設立されたことから始まります。(※1919年は、ホームズ氏が前身となる紡績工場を始めた年であり、テディベアメーカーとしてのメリーソート社の公式な設立は1930年とされています。)彼は、ドイツのシュタイフ社に匹敵する、英国製の高品質なテディベアを作るという大きな夢を抱いていました。
社名である「メリーソート」は、非常にユニークで、英国の文化に深く根差した意味を持っています。これは、鳥(特に七面鳥や鶏)の胸にある二又の骨(ウィッシュボーン)を指す古い言葉です。英国では、この骨の両端を二人で引き合い、長い方を取った者の願いが叶うという言い伝えがあり、古くから幸運を呼ぶシンボルとして大切にされてきました。
この幸運のウィッシュボーンは、メリーソート社のロゴとしてデザインされ、設立当初から現在に至るまで、製品のタグや足の裏のラベルに誇らしげに刺繍されています。一体一体のテディベアが、持ち主に幸運をもたらすようにという、創業者たちの温かい願いが込められているのです。
第2章:1930年代のクラシックベア - 黄金期の傑作たち
設立から間もない1930年代は、メリーソート社にとって最初の黄金期であり、この時代に作られたテディベアは、アンティーク市場でも特に高い評価を受けています。ご提示いただいた画像のようなベアは、まさにこの時代の特徴を色濃く反映しています。

表情を決定づける、特徴的な鼻の刺繍
メリーソート社のベアを識別する上で、鼻の刺繍(ステッチ)は非常に重要なポイントです。ご指摘の通り、下広がりの大きな鼻は、同社に存在する3つの主要なステッチタイプの中でも、最もポピュラーで広く知られたスタイルです。この独特のステッチは、ベアに優しく、どこか物言いたげな表情を与え、多くのファンを魅了しました。
最高品質の素材と伝統的な製法
初期のメリーソートベアは、素材選びにも一切の妥協がありませんでした。
- ファー: 胴体には、光沢と手触りに優れた最高級のモヘアが使用されています。
- パッド: 手足の裏のパッドには、温かみのあるウールフェルトが用いられました。
- 目: 表情に深みを与える目は、もちろんガラス製です。黒い瞳の周りにアンバー色(琥珀色)を配したグラスアイは、見る角度によって様々な表情を見せてくれます。
- 詰め物(スタッフィング): ご提示の情報にある「サブ」とは、おそらく詰め物の素材を指す言葉の一部かと思われます。当時のテディベアの詰め物としては、ウッドウール(木毛、Excelsiorとも呼ばれる)や、軽量で柔らかいカポック(Kapok)が主流でした。これらの天然素材が、当時のベアに独特のしっかりとした抱き心地を与えています。
第3章:現代のアイコン - 「チーキー」と革新的な挑戦
メリーソート社の名を世界に轟かせたのは、クラシックなテディベアだけではありません。1957年に誕生した、もう一つのアイコン的存在がいます。それが、大きな耳といたずらっぽい笑顔が特徴の「チーキー(Cheeky)」です。
そのユニークなデザインは、偶然の産物でした。当初のデザイン案を見たエリザベス皇太后(クイーン・マザー)が、その表情を「なんて生意気そうな(Cheeky)顔なの!」と評したことから、その名が付けられたという逸話はあまりにも有名です。両耳に仕込まれた鈴の音も、チーキーの愛らしい個性を際立たせています。
メリーソート社は、こうした伝統的なキャラクターを守り続ける一方で、現代のファンを驚かせるような、新しい挑戦も続けています。その最たる例が、ご提示いただいた驚くべきコラボレーションモデルでしょう。
メリーソート テディベア ベビー チーキー ダッフィー ぬいぐるみ ディズニー テディベア コンベンション記念版 Duffy

このぬいぐるみは、単なるメリーソート社の製品ではありません。英国の「チーキー」と、ディズニーが生んだ世界的人気キャラクター「ダッフィー」が融合した、極めて希少な限定品です。「ディズニー テディベア コンベンション記念版」として、特別なイベントのために作られた、まさにコレクターズアイテム中のコレクターズアイテムと言えます。
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メリーソート テディベア ベビー チーキー ダッフィー ぬいぐるみ ディズニー テディベア コンベンション記念版 Duffy 価格:753,840円 |
二つの有名ブランドの融合、コンベンション限定という希少性、そして最高品質の素材と職人技。これら全ての要素が組み合わさることで、このような芸術品としての価値が生まれるのです。これは、メリーソート社が伝統を守りながらも、常に新しい可能性を追求し続けていることの力強い証明です。
結論:英国の誇りを紡ぎ続ける最後の砦
メリーソート社は、その長い歴史の中で、英国王室をはじめとする世界中の人々に愛され、数え切れないほどの笑顔を生み出してきました。創業から90年以上が経過した今も、アイアンブリッジの地で、職人たちが一つ一つ手作業でテディベアに命を吹き込んでいます。
1930年代の温かみあふれるクラシックベアから、現代のポップカルチャーと融合したアートピースまで、その全ての製品に共通しているのは、幸運を願う「ウィッシュボーン」の精神と、英国製であることへの揺るぎない誇りです。メリーソートのテディベアは、単なるぬいぐるみではなく、持ち主の人生に寄り添い、世代を超えて受け継がれていく、かけがえのない家族の一員なのです。


