
シュタイフ社の愛すべき”もじゃもじゃ”ベア「ゾッティ」の物語
テディベアの世界に燦然と輝く星、ドイツのシュタイフ(Steiff)社。その1世紀以上にわたる長い歴史の中で、数え切れないほどの傑作が生まれてきましたが、1950年代という時代を象徴し、今なお世界中で安定した人気を保っている特別なテディベアがいます。それが、愛嬌たっぷりの表情で私たちに微笑みかける「ゾッティ(Zotty)」です。
その名の通り「もじゃもじゃ」の毛並みを持ち、大きく口を開けた表情は、一度見たら忘れられないほどのインパクトと親しみやすさを感じさせます。この記事では、第二次世界大戦後の希望の光として誕生し、ついにはホワイトハウスの住人をも魅了した、シュタイフ社の名作「ゾッティ」の奥深い魅力に迫ります。
第1章:希望の時代のニューフェイス - ゾッティの誕生
”もじゃもじゃ”という名のテディベア
ゾッティがシュタイフ社のカタログに初めて登場したのは1951年のこと。第二次世界大戦の傷跡から力強く復興を遂げつつあったドイツ、そして世界が、新しい時代の到来と明るい未来を待ち望んでいた、そんな時代でした。シュタイフ社もまた、伝統的なテディベアのデザインを踏襲しつつも、人々の心を和ませ、笑顔にするような、新しいキャラクターを模索していました。
そんな中で生まれたのがゾッティです。その名前は、ドイツ語の「zottig」に由来します。これは「毛むくじゃらの」「もじゃもじゃの」といった意味を持つ言葉で、ゾッティのふさふさとした長い毛並みの特徴を実に見事に捉えています。シリアスで威厳のあるクラシックベアとは一線を画す、親しみやすく、少しおどけたようなネーミング。これこそが、新しい時代の幕開けを象徴するテディベアのコンセプトだったのです。
第2章:一目で心を掴む、ゾッティだけのユニークな特徴
ゾッティが、数あるシュタイフベアの中でも特別な存在感を放っているのは、その計算され尽くした、愛嬌あふれるデザインに理由があります。ご提供いただいた情報にある特徴は、まさにゾッティをゾッティたらしめる重要な要素です。
- オープンマウス(開いた口): ゾッティの最大の特徴は、何と言ってもにっこりと開かれた口です。口の中はピーチ色のフェルトで彩られ、まるで何かを話しかけているか、楽しそうに笑っているように見えます。それまでのテディベアが持つ、どこか物静かで思慮深い表情とは対照的に、陽気で社交的なキャラクターを演出することに成功しました。
- 胸のビブ(ツートンのモヘア): キャラメル色の長いモヘアの体に、胸の部分だけアプリコットやクリーム色の違うファーが使われているのも、ゾッティを象徴するデザインです。これは「ビブ(よだれかけ)」と呼ばれ、愛らしい幼い子熊のような印象を与えます。このツートンカラーが、ゾッティの見た目を一層華やかで楽しいものにしています。
- アンバランスな愛らしさ(長い手足): 大きな割に手足が長く作られているのも、ゾッティならではの魅力です。この少しアンバランスなプロポーションが、どこか頼りなげで甘えん坊な雰囲気を醸し出し、「抱きしめてあげたい」という気持ちをかき立てます。ご提示のHight(高さ)36cmというサイズは、子どもが抱えるのにちょうど良い、人気のサイズの一つでした。
- シュタイフの品質証明: もちろん、素材と作りはシュタイフの基準を満たす最高級のものです。フェルトのパッド、職人が手作業で仕上げる刺繍された鼻、そして深みと輝きを持つガラスの目。体の中にしっかりと詰められたウッドウール(木毛)は、伝統的なテディベアならではの、ずっしりとした心地よい重みを感じさせてくれます。
第3章:ホワイトハウスのクリスマスプレゼント
ゾッティの人気を国際的なものへと押し上げた、非常に有名なエピソードがあります。その舞台は、なんとアメリカのホワイトハウスでした。
1962年のクリスマス。当時のファーストレディであったジャクリーン・ケネディ夫人は、ホワイトハウスで飼っていたペットたちのために、ドイツのシュタイフ社からぬいぐるみを取り寄せました。その中の一つに、ジョン・F・ケネディ大統領が特に可愛がっていた愛犬、ウェルシュ・テリアの「チャーリー」へのプレゼントとして、ゾッティが含まれていたのです。
この心温まるエピソードは、当時の雑誌にも写真付きで掲載され、アメリカ中の人々の知るところとなりました。ファッショナブルで洗練されたケネディ家が選んだテディベアとして、ゾッティは一躍スターダムにのし上がります。この出来事により、ゾッティはシュタイフ社を代表する看板商品となり、その人気は不動のものとなったのです。
第4章:コレクターを魅了し続ける理由
ゾッティが誕生から70年以上経った今でも「安定した人気を保っている」のには、確かな理由があります。それは、単に可愛いだけでなく、コレクターの探求心をくすぐる奥深さを備えているからです。
多彩なバリエーション
ゾッティは、実は非常に多くのバリエーションが存在します。定番のキャラメル色以外にも、ダークブラウンや、非常に希少価値の高いホワイトモヘアのゾッティも作られました。サイズも、手のひらに乗る17cmほどの小さなものから、75cmを超える特大サイズまで様々です。さらに、寝かせると目を閉じる「スリーピングアイ」というギミックが搭載されたモデルや、手を入れて遊べるパペットタイプなど、集め始めると尽きることのない魅力に満ちています。
歴史の証人「ボタン・イン・イヤー」
シュタイフ製品の証である「ボタン・イン・イヤー」とそれに付随するタグも、コレクターにとっては重要なポイントです。製造された年代によってボタンのデザインやタグの色が異なるため、それらを調べることで、手元にあるゾッティがいつの時代に作られたものなのかを知ることができます。一体一体のゾッティが持つ歴史を紐解く作業は、コレクションの醍醐味と言えるでしょう。
結論:時代を超えて愛される”もじゃもじゃ”の親友
シュタイフ社のゾッティは、第二次世界大戦後の世界が求めていた「明るさ」「楽しさ」「親しみやすさ」を体現した、テディベア史における一つの発明でした。その”もじゃもじゃ”の毛並みと、屈託のない笑顔は、当時の人々の心を癒し、希望を与えました。
そして、その魅力は少しも色褪せることなく、現代にまで受け継がれています。ホワイトハウスの逸話に思いを馳せるもよし、多彩なバリエーションの奥深さにのめり込むもよし。ゾッティは、これからもきっと、時代や国境を超えて、世界中の人々の心に寄り添う、かけがえのない親友であり続けることでしょう。


