ひろこも佐藤さんのテディベア

 

 

心の中に生き続ける、ひろこも佐藤さんのテディベア

一体のテディベアとの出会いが、人生に忘れられない記憶を刻むことがあります。それは単なる「モノ」との出会いではありません。その一体に魂を吹き込んだ作り手と、それを探し求めていた者との、静かで、しかし確かな心の交流の始まりです。私にとって、今は亡きテディベア作家、故ひろこも佐藤さんの作品は、まさにそのような、かけがえのない存在です。




第1章:大阪コンベンションでの、運命的な出会い

ひろこも佐藤さんに初めてお会いしたのは、大阪梅田で開催されたテディベアコンベンションでした。会場の熱気に満ちた喧噪の中、比較的入り口の近くに、彼女のブースはありました。そのころの私は、まだテディベアの世界に足を踏み入れたばかりの初心者で、作家の名前や作品の系統など、詳しいことはよく知らなかったのです。

しかし、知識の有無など関係ありませんでした。数多のテディベアが並ぶ中で、ひろこも佐藤さんのベアが放つ、静かで、それでいて強い魅力に、私は一瞬で心を奪われました。いわゆる「一目惚れ」です。その独特の顔立ち、佇まい、すべてが私の心を捉えて離しませんでした。「このベアを、家に連れて帰りたい」。その一心で、すぐさま購入を申し出ました。

ところが、私の願いは叶いませんでした。東京からわざわざこの日のために出かけて来たのにもうすでに売り切になっていたのです。開場からそれほど時間は経っていなかったはずですが、彼女の作品は、私と同じように心を射抜かれた人々によって、あっという間に新しい家族の元へと旅立ってしまっていたのでした。

第2章:一年越しの約束

落胆する私を見て、彼女は本当に申し訳なさそうな顔をしました。その表情は今でもはっきりと覚えています。商業的なやり取りを超えた、心からの「ごめんなさい」が伝わってくる、誠実な表情でした。

そして、彼女は私にこう約束してくれたのです。「次回のコンベンションでは、必ずあなたのために予約しておきますから」と。それは、見ず知らずの、一人の初心者に過ぎない私にかけてくれた、温かい言葉でした。

その約束だけを支えに、私は一年間待ち続けました。そして一年後、ようやく約束のテディベアを手に入れることができたのです。その時の喜びは、筆舌に尽くしがたいものでした。その後も、幸運なことに何回か彼女の作品を購入する機会に恵まれ、私のコレクションは少しずつ豊かになっていきました。

第3章:シュタイフへの敬愛が生んだ、独特の顔立ち

ひろこもさんの作品は、なぜあれほどまでに人気があったのでしょうか。それは、彼女が持つ独特のデザインセンスにありました。

ひろこもさんのテディベアはシュタイフをアレンジしたような独特の顔立ちに人気がありました。

彼女の作品には、テディベアの原点であるドイツのシュタイフ社への深い敬愛が感じられました。クラシックなシュタイフベアが持つ、気品や風格、しっかりとした骨格。そうした「基本」を深く理解した上で、そこに彼女自身の感性というフィルターを通して、全く新しい命を吹き込んでいたのです。どこか憂いを帯びたような、それでいて見る人の心に寄り添ってくれるような、優しく知的な表情。それは、古典へのリスペクトと、現代的な感性が見事に融合した、まさに「ひろこもさんの顔」でした。

第4章:美人薄命 - 早すぎる別れ

私は、彼女のプライベートなことは何も知りませんでした。ただ、コンベンションの会場で交わす、短い会話の中に垣間見える、その誠実で優しい人柄に惹かれていただけです。だからこそ、彼女の訃報に接した時は、にわかには信じられませんでした。

あんなに早く亡くなるとは思っても見なかったので、信じられませんでした。才能にあふれ、これからさらに多くの素晴らしい作品を生み出してくれると信じて疑わなかった人の、あまりにも突然の旅立ち。まさに、美人薄命とは彼女のことだったようです。

彼女の人生の時間があまりに短かったので、その創作時間も限られていたのが残念でなりません。あの素晴らしい感性で、これからどれほど多くの人々を魅了するベアが生まれたことだろうと思うと、今でも胸が締め付けられる思いです。

結論:我が家の家族として、永遠に

作家は、その命を作品の中に残します。ひろこも佐藤さんという一人の女性が、その短い生涯の中で情熱を注ぎ、命を削って生み出したテディベアたち。その一体一体には、彼女の優しさ、誠実さ、そして類まれなる感性が、確かに宿っています。

いまでも我が家の家族としてひろこもさんのテディベアは大切にされています。

彼女がこの世を去った今も、彼女の分身であるテディベアたちは、私の家で、そして全国のファンの家で、大切な「家族の一員」として、静かに、しかし確かに生き続けています。嬉しい時には共に喜び、悲しい時には黙って寄り添ってくれる。その存在は、私にとって、ひろこも佐藤さんという素晴らしい作家と出会えたことの証であり、永遠の宝物なのです。

 

シュタイフテデイベア
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