
ウィットニーで出会った奇跡:世界でただ一体のシュタイフベア「アルフォンゾ」の物語
テディベアを愛する者にとって、「アルフォンゾ」の名は、特別な響きを持ちます。それは単なるアンティークベアではありません。激動の時代を生きた王女の生涯に寄り添い、多くの人々の心を魅了し続ける、生きた歴史そのものです。先日、私も長年の夢を叶え、はるばるイギリスのウィットニーへ、その伝説のベアに会いに行ってまいりました。
ウィットニーのテディベアショップは、まさにテディベアの聖地と呼ぶにふさわしい場所でした。お店の方々は皆とても親切で、温かいミルクティーまでごちそうになってしまい、そのおもてなしの心に感動しました。そして、いよいよ「アルフォンゾ」との対面です。その瞬間は、言葉では言い表せないほど感動的なものでした。
アルフォンゾとの奇跡的な出会い
アルフォンゾの現在の持ち主であるイアンさんは、想像以上にアルフォンゾを大切にされていました。彼に言わせれば、アルフォンゾは単なる所有物ではなく、家族の一員、あるいは歴史的な遺産そのものなのでしょう。特別なガラスケースに丁寧に収められ、厳重に管理されている姿を見れば、その愛情の深さが伝わってきます。
光栄なことに、写真撮影は許可していただけましたが、直接触れることはできませんでした。それは、この奇跡的な状態を未来へ引き継ぐための、当然の配慮だと理解しています。撮影中も、イアンさんは常にアルフォンゾの傍らで、心配そうにその姿を見守っていました。その姿は、まるで我が子を見つめる親のようでした。よほど大切なテディベアなのだろう、いや、世界で一つしかないのだから当たり前です。
真正面から捉える「超カワイイ」表情
グラビア写真や専門誌で何度もその姿を見てきましたが、やはり本物のアルフォンゾは違いました。爺が言うのもなんですが、まさに「超カワイイ」の一言に尽きます。シュタイフのアンティークベアは、横顔がシャープで、時にリアルな熊の野性味を感じさせるものが多いのですが、アルフォンゾの真正面の顔は別格です。その表情はキュートで、私の目線を釘付けにしました。
ギリギリまで近づいて、30cmほどの距離で見ることができたのは、本当に幸運でした。その大きなガラスの瞳の奥には、100年以上の時を超えてきた、深い物語と、持ち主への揺るぎない愛情が宿っているように感じられました。わざわざイギリスまで来た甲斐があったというものです。あの感動は、今でも鮮明に心に残っています。
この悲運のテディベアは、今でも世界中の人々を魅了し、彼の物語に触れるために訪れる人が後を絶ちません。その時の感動を少しでも共有していただきたく、当時の動画が少しございますので、ぜひご覧になってみてください。
ロシアのゼニア王女とアルフォンゾの壮絶な物語
アルフォンゾがなぜこれほどまでに特別な存在なのか。それは、彼の背後に隠された、ロシアのゼニア王女との深く、そして悲劇的な物語を知ることで、さらに理解が深まります。
★★ロシアのゼニア王女とアルフォンゾの物語★★
1908年に特注で制作された、オリジナル・アルフォンゾは、シュタイフの歴史上、そのサイズとしてはただ一体しか制作されなかった真っ赤なベアです。1908年に、ロシアのゲオルギ・ミハイロビッチ大公がイギリスのハロッズに、ゼニア(エクセーニア)・ジョージェヴィナ王女のための特別な一体の注文を出しました。これを受け、シュタイフ社はすぐに24体のサンプル・ベアを制作しました。大公爵は、そのうちの大きなサイズ(13インチ)の真っ赤なベアを選び、彼の娘ゼニア王女に贈りました。同じサイズのベアとしては5色いたことが分かっており、その内のブルーはエリオットとして有名ですね。
・・・ゼニア王女は、この真っ赤なベアを「アルフォンゾ」と名づけ、とっても気に入って、いつも一緒でした。乳母がこのアルフォンゾにロシアのコサック風の衣装を作って着せてくれました。かの有名な従姉妹のアナスタシア妃もこのベアで一緒に遊んだようです。アルフォンゾは王女に愛されつづけました。ある時ゼニア王女はアルフォンゾと一緒にイギリスにバカンスに行きました。そのバカンス中に、祖国でロシア革命が起こり、父上や祖父を暗殺され、祖国は帝政から社会主義国家へ変貌していき、ゼニア王女はアルフォンゾと共に、二度と祖国へ戻れなくなってしまったのでした。このゼニアの生涯は、悲劇の物語として語り継がれており、61歳で、57年もの間、その生涯を閉じるまで常にその傍らにはアルフォンゾがいました。その後、娘に受け継がれます。
この物語が示すように、アルフォンゾは単なるおもちゃではありませんでした。ロシア革命という激動の時代、故郷を追われた幼い王女にとって、彼は唯一無二の、そして最後の故郷の絆であり、揺るぎない心の支えだったのです。乳母が手縫いしたコサック風の衣装を身につけ、アナスタシア妃と遊んだという逸話は、彼がいかに愛され、大切にされていたかを物語っています。
そして何よりも、ゼニア王女がその生涯を終えるまでの57年間、常にアルフォンゾを傍らに置いていたという事実は、彼がどれほど王女の心に深く根ざしていたかを雄弁に語っています。その小さな赤い体に、どれほどの悲しみや喜び、そして希望が染み込んでいったことでしょうか。アルフォンゾの表情が持つ、どこか憂いを帯びた深みは、まさにこの壮絶な歴史を物語っているように感じられます。
なぜアルフォンゾはこれほどまでに魅了するのか?
アルフォンゾは、シュタイフが1908年に特別な注文を受けて制作した、13インチ(約33cm)の真っ赤なモヘアベアです。同じサイズのベアが他に5色存在した中で、赤色のベアはこの一体のみという希少性も、彼の価値を一層高めています。青色のベア「エリオット」が有名であるように、当時の貴族たちは色とりどりのテディベアを愛したのでしょう。
しかし、アルフォンゾが単なる希少品に留まらないのは、その「顔」が持つ力に他なりません。彼の「超カワイイ」真正面の顔は、単に愛らしいだけでなく、見る人の感情を揺さぶる深みを持っています。寂しい時には慰めに、楽しい時には静かに寄り添い、そして忘れられた時には、そっと物悲しさを訴えかけてくるような、そんな表情です。
100年以上の時を超えても、アルフォンゾはその愛らしさの奥に、かつて経験した悲劇と、王女から注がれた限りない愛情を訴えかけてきます。ウィットニーでアルフォンゾと対面した時、私が感じたのは、まさにこの「100年たっても訴え続ける作品」の持つ、圧倒的な力でした。
アルフォンゾは、テディベアが単なるぬいぐるみをはるかに超え、人の心を癒し、歴史を語り継ぐ存在であることを教えてくれます。彼の物語は、これからも世代を超えて語り継がれ、世界中のテディベア愛好家たちの心に、深い感動を与え続けることでしょう。


