悲劇の王女を支え続けた赤いテディベア「アルフォンゾ」の物語

一体のテディベアが、革命の嵐を乗り越え、故国と家族を失った少女の人生を、生涯にわたって支え続けた物語をご存知でしょうか。そのテディベアの名は「アルフォンゾ」。持ち主は、ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世の従妹にあたる、クセニア・ゲオルギエヴナ王女です。

これは、歴史の荒波に翻弄された王女と、彼女の唯一の慰めとなった赤いテディベアの、愛と絆の物語です。

100年の時を超えて語り継がれる、真紅のテディベア「アルフォンゾ」と悲劇の王女の愛の物語




幸福の絶頂と「アルフォンゾ」の誕生

1908年、ドイツのシュタイフ社は一体の特別なテディベアを制作しました。燃えるような真紅のモヘアで作られたそのベアは、ロシア皇族であるゲオルギー・ミハイロヴィチ大公から、愛娘である5歳のクセニア王女への贈り物でした。

父、ゲオルギー大公はロシア皇帝ニコライ1世の孫にあたり、クセニア王女はロマノフ家の血を引く、まさに「本物のプリンセス」でした。王女は、大好きな父親から贈られたこの真っ赤なテディベアに「アルフォンゾ」と名付け、どこへ行くにも連れて歩くほど大切にしました。一説には、この赤い色は当時のロシア宮廷の軍服の色を模したものであり、父親の愛情そのものの象徴だったと言われています。

革命の勃発、引き裂かれた運命

幸福な日々は、突如として終わりを告げます。

1914年の夏、クセニア王女は母と妹と共に、親戚のいるイギリスを訪問していました。その滞在中に、第一次世界大戦が勃発。そして、故国ロシアでは革命の炎が燃え上がり、ロマノフ王朝は崩壊します。

父ゲオルギー大公はロシア軍に残っていましたが、革命政府に捕らえられ、1919年、他の皇族と共に処刑されてしまいます。父の死、そして二度と帰ることのできない故国。幼いクセニア王女は、愛するもののすべてを一度に失ってしまったのです。

ロンドンで亡命生活を送ることになった王女の腕の中には、ただ一体、父の形見であるアルフォンゾだけが残されました。アルフォンゾは単なるぬいぐるみではありませんでした。それは、幸福だった頃の記憶、そして何よりも父親との最後の絆を宿した、王女の魂の拠り所となったのです。

王女と共に生き、語り継がれる存在へ

クセニア王女はその後、アメリカに渡り、結婚を経てその地で生涯を終えました。彼女が亡くなるまで、アルフォンゾがその側を離れることはありませんでした。

アルフォンゾは、王女の死後、娘のナンシー・リーズへと受け継がれます。そして1989年、ついにロンドンのクリスティーズ・オークションに出品されることになりました。

このオークションで、アルフォンゾは当時のテディベア史上最高額となる12,100ポンド(現在の価値で数千万円にも相当)で落札されます。この驚くべき価格は、単なる骨董品としての価値ではありません。ロシア革命という激動の時代を生き抜き、悲劇の王女の人生に寄り添い続けた「歴史の証人」としての価値が認められた瞬間でした。


今日、アルフォンゾの鮮やかな赤い色は「アルフォンゾレッド」として世界中のテディベア愛好家に知られ、今なお多くの人々を魅了し続けています。

一体のテディベアが、持ち主の人生そのものを宿し、時代を超えて物語を語り継いでいく。アルフォンゾの物語は、テディベアが単なる玩具ではなく、持ち主の魂と記憶を受け継ぐ、かけがえのない伴侶であることを私たちに教えてくれます。

(C)suzuki seiichi

シュタイフテデイベア
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